ノーコード制作の契約書には、通常のWebサイトや業務システム制作と同じく、何を、どこまで作るのか、完成後に誰が管理するのか、問題が起きたときにどう対応するのかを記載します。ノーコードだから契約書が簡単になるわけではありません。
特に重要なのは、使用するノーコードサービス、作成する機能、アカウントやデータの所有者、サービス終了・仕様変更時の扱いです。後から「そこまで含まれると思っていた」というトラブルが起きないよう、口頭で決めた内容も契約書や仕様書に反映します。
ノーコード制作の契約書に記載する主な内容
契約書には、次の項目を盛り込みます。契約書本体にすべて書かず、仕様書や見積書を契約書の一部として扱う方法もあります。
- 契約の目的と制作対象
- 制作する機能と範囲
- 使用するノーコードサービスや外部ツール
- 納品物と納品方法
- 検収の方法と期限
- 制作費、支払時期、サービス利用料
- 修正や追加作業の扱い
- アカウント、データ、ドメインの管理者
- 著作権などの知的財産権
- 保守、運用、障害対応の範囲
- 秘密保持と個人情報の取扱い
- 契約期間、解除、損害賠償、免責
1. 制作の目的と対象を明記する
最初に、何のために何を制作する契約なのかを記載します。たとえば「企業サイトの制作」「問い合わせ受付フォームの構築」「社内業務管理アプリの構築」など、制作対象を具体化します。
「Webサイト一式」「業務アプリの制作」といった表現だけでは、ページ数や機能の範囲が分かりません。契約書または仕様書に、少なくとも次の内容を記載します。
- 制作するサイト、アプリ、データベースなどの種類
- ページ数や画面数
- 搭載する主な機能
- 対応する端末やブラウザ
- デザイン、文章、画像を誰が用意するか
- 公開先や利用者の範囲
対象外となる作業も重要です。たとえば、ロゴ制作、写真撮影、文章作成、翻訳、決済機能、会員登録機能、既存データの移行などを行わない場合は、「本契約に含まれない作業」として示します。
2. ノーコードサービスと外部ツールを特定する
ノーコード制作では、使用するサービスによって機能、料金、データ保存場所、利用規約、仕様変更の影響が異なります。そのため、サービス名を「ノーコードツール」とだけ書かず、具体的な名称と利用範囲を記載します。
- 使用するノーコードサービスの名称
- 利用するプランが決まっている場合は、そのプラン
- 連携する決済、メール配信、予約、分析などの外部サービス
- 必要な有料プランや有料アドオン
- サービスの利用料を誰が負担するか
- サービスの仕様変更や提供終了が起きた場合の対応
外部サービスの月額料金や従量料金を制作費に含めるのか、依頼者が直接契約するのかも明確にします。制作会社が契約者になる場合は、契約終了後にアカウントを移管できるか、移管費用が発生するかも定めておくと安心です。
3. 機能と制作範囲を仕様書で具体化する
ノーコード制作では、打ち合わせ中に機能を追加しやすいため、契約時点の制作範囲を仕様書に固定しておくことが重要です。
たとえば、問い合わせフォームであれば、次のような内容を記載します。
- 入力項目と必須項目
- 入力内容のチェック方法
- 送信完了画面の有無
- 通知メールの送信先
- データの保存期間と保存場所
- 自動返信メールの有無
- 迷惑メール対策の有無
業務システムであれば、利用者の権限、登録できるデータ、検索・集計機能、通知、外部サービスとの連携、操作履歴の保存なども対象になります。
「通常どおり動作すること」のような抽象的な表現だけでなく、完成時に確認する機能を一覧にします。仕様書を契約書の別紙とし、「別紙の仕様書を契約内容に含める」と定める方法もあります。
4. 契約の種類と完成責任を確認する
制作契約では、完成した成果物の引き渡しを目的とする請負契約にするのか、作業や業務の提供を目的とする準委任契約にするのかを確認します。実際の契約では、名称だけでなく、契約内容や業務の実態が重要です。
成果物の完成と引き換えに報酬を支払う形であれば、何を完成とするか、検収をどのように行うかを具体的に定めます。一方、継続的な改善や運用支援のように作業の提供を目的とする場合は、対応時間、作業内容、成果の扱いを定めます。
契約類型によって法的な扱いが変わる可能性があるため、高額な制作や業務上重要なシステムでは、契約書の最終確認を弁護士などの専門家に依頼します。民法の契約に関する規定は、e-Gov法令検索の民法で確認できます。
5. 納品物と納品方法を記載する
ノーコード制作では、ソースコードを納品するとは限りません。何を納品物とするのかを、ノーコードサービスの仕組みに合わせて記載します。
- 公開済みのWebサイトやアプリ
- ノーコードサービス内のプロジェクト
- 設定済みのデータベースやワークフロー
- 管理者アカウントや権限
- 操作マニュアル
- デザインデータや画像などの制作データ
- 初期データや移行データ
納品方法も、「公開をもって納品とする」「管理者権限を付与した時点で納品とする」など、完了の基準を定めます。納品後に依頼者が自分で更新する場合は、ログイン情報の引き渡し方法や、引き渡し後のサポート期間も記載します。
6. 検収の方法と期限を定める
検収とは、納品物が契約や仕様書の内容を満たしているかを依頼者が確認する手続きです。検収の期限や、問題が見つかった場合の修正方法を決めておきます。
契約書には、次のような内容を記載します。
- 納品後、何営業日以内に確認するか
- どの環境や端末で確認するか
- 仕様書と異なる部分をどのように通知するか
- 受託者が無償で修正する範囲
- 検収完了の条件
- 期限までに連絡がない場合の扱い
無償修正の対象は、契約や仕様書との不一致に限定する方法が一般的です。納品後に依頼者が追加した変更や、ノーコードサービスの仕様変更による不具合まで無償対応に含めるのかは、別に定める必要があります。
7. 制作費と継続的に発生する費用を分ける
料金は、初回の制作費と、公開後も継続する費用を分けて記載します。ノーコード制作では、ツールの利用料や外部サービスの費用が別途発生することがあります。
| 費用の種類 | 契約書で確認する内容 |
|---|---|
| 制作費 | 金額、税込・税別、支払時期、分割払いの有無 |
| ノーコードサービス利用料 | 契約者、支払者、プラン変更や解約の担当者 |
| 外部サービス費 | メール、決済、予約、分析などの料金負担 |
| 追加作業費 | 変更や追加機能の単価、見積もり、承認方法 |
| 保守・運用費 | 月額費用、対応時間、作業範囲、対象外の作業 |
「実費は別途」とだけ記載すると、どの費用が実費に含まれるのか不明確になります。対象となるサービス名や、費用が変動する場合の通知方法も定めます。
8. 仕様変更と追加作業の扱いを決める
契約後にページ、機能、デザイン、連携先などを変更する場合は、追加費用や納期変更が発生することがあります。変更の依頼方法と、正式に着手する条件を契約書に記載します。
たとえば、次の手順を定めます。
- 依頼者が変更内容を文書やメールで伝える。
- 受託者が、追加費用と納期への影響を示す。
- 依頼者が内容と金額を承認する。
- 双方が合意した後に、追加作業を開始する。
口頭での依頼だけで作業を進めると、追加費用の有無や納期について認識が分かれやすくなります。チャットやメールの承認を契約変更の記録として扱うのかも、あらかじめ決めておきます。
9. アカウント、ドメイン、データの管理者を決める
ノーコード制作では、サービスのアカウントが制作物の管理に直結します。契約書には、アカウントを誰の名義で作成し、誰が管理するのかを明記します。
- ノーコードサービスの契約名義
- 管理者アカウントの所有者
- ログイン情報の引き渡し方法
- ドメインの登録名義と更新担当者
- データベースや顧客データの管理者
- 制作会社が管理する場合の契約終了後の移管方法
制作会社のアカウント内でサイトを作る場合、契約終了後に依頼者がそのまま利用できるとは限りません。アカウントの移管ができるか、移管できない場合にどのような形式でデータを渡すかを確認します。
また、ノーコードサービスによっては、プロジェクトや設定を別のアカウントへ移せない場合があります。契約前に移管可能性を確認し、難しい場合は管理者を依頼者側にするなどの方法を検討します。
10. 著作権や利用許諾の範囲を定める
制作物の著作権などの知的財産権を誰が持つのか、納品後に依頼者がどの範囲で利用できるのかを記載します。
次の対象を分けて扱うと、権利関係が整理しやすくなります。
- 新たに作成したデザイン、文章、画像
- 受託者が以前から保有しているテンプレートや部品
- ノーコードサービスそのものの機能やテンプレート
- 第三者が提供するフォント、画像、プラグイン、素材
- 依頼者が提供したロゴ、文章、写真、顧客データ
著作権を譲渡するのか、依頼者に利用許諾を与えるのかによって、利用できる範囲が変わります。譲渡する場合は、対象となる成果物や譲渡時期、対価を明確にします。利用許諾の場合は、利用期間、地域、改変や再利用の可否を記載します。
第三者素材については、商用利用、加工、掲載期間、利用地域などのライセンス条件を確認します。ノーコードサービスのテンプレートや素材を利用した場合、依頼者へ自由に権利を移せるとは限りません。
11. 保守・運用と不具合対応の範囲を決める
制作契約に、公開後の保守や運用が自動的に含まれるとは限りません。契約書には、納品後に対応する作業と、対応しない作業を分けて記載します。
- 文章や画像の更新
- 軽微なレイアウト修正
- ノーコードサービスの仕様変更への対応
- 障害や表示不具合の調査
- バックアップや復旧
- アクセス解析や改善提案
- 問い合わせへの対応時間
保守契約を結ばない場合は、納品後の問い合わせ対応期間や、初期不具合の修正期限を定めます。ノーコードサービス側の障害、サービス終了、仕様変更、利用料金の改定など、受託者だけでは制御できない事象の扱いも記載します。
12. 秘密保持と個人情報の取扱いを定める
制作中に顧客情報、社員情報、営業情報などを扱う場合は、秘密保持だけでなく、個人情報の取扱いも契約書で確認します。
- 受託者が利用できるデータの範囲
- データを利用する目的
- アクセスできる担当者
- 保存場所と保存期間
- 再委託の可否
- 漏えい、紛失、誤送信が起きた場合の連絡方法
- 契約終了時の返却、削除、廃棄
外部のノーコードサービスに個人情報を保存する場合は、サービスの利用規約やプライバシーに関する説明も確認します。個人情報を取り扱う業務では、e-Gov法令検索の個人情報の保護に関する法律など、適用されるルールに沿って契約内容を検討します。
13. 再委託と第三者サービスの利用を明記する
制作会社がデザイナー、エンジニア、運用代行会社などへ業務を再委託する可能性がある場合は、再委託の条件を定めます。
- 再委託に依頼者の事前承諾が必要か
- 再委託先にも秘密保持義務を負わせるか
- 個人情報を再委託先が扱うか
- 再委託先の作業について誰が責任を負うか
ノーコードサービスやメール配信サービスなど、制作に必要な第三者サービスを使う場合も、サービス障害や利用停止が発生したときの責任分担を確認します。
14. 契約期間、解除、損害賠償を定める
契約期間、途中解約の条件、解約時の精算方法も必要です。制作途中で契約を終了する場合に、完成済みのデータをどこまで渡すのか、支払い済みの費用をどう扱うのかを決めます。
損害賠償については、賠償の対象、上限、故意や重過失がある場合の扱いなどを確認します。ただし、責任を一律に免除または制限できるとは限らないため、消費者との契約や個人情報を扱う契約では、個別の事情に応じた確認が必要です。
契約書には、次のような事項も含めます。
- 契約期間と更新方法
- 解除できる事由と通知方法
- 未完成の成果物やデータの引き渡し
- 未払い費用や返金の扱い
- 損害賠償の範囲と上限
- 不可抗力による遅延や停止の扱い
- 紛争が起きた場合の協議や管轄裁判所
契約書を作る前に確認したいチェック項目
契約締結前に、次の項目を依頼者と制作者の双方で確認します。
- 完成と判断する機能が一覧になっているか
- 制作対象外の作業が明確か
- 使用するノーコードサービスとプランが決まっているか
- 月額料金や従量料金の支払者が決まっているか
- アカウント、ドメイン、データの管理者が決まっているか
- 納品後の修正と保守の範囲が分かれているか
- 追加機能を依頼する場合の手続きが決まっているか
- 著作権と第三者素材の利用条件を確認しているか
- 個人情報をどのサービスに保存するか決まっているか
- サービス終了や仕様変更が起きた場合の対応が決まっているか
契約書に書かれていない作業を、相手が当然に対応するとは限りません。見積書、仕様書、提案書、メールで合意した内容を確認し、契約書との優先順位も定めておくと、認識のずれを抑えられます。
ノーコード制作の契約書は「サービス依存」と「運用後」を特に確認する
ノーコード制作の契約書では、一般的な制作条件に加えて、利用するサービスの仕様や料金が変わった場合の扱いと、納品後のアカウント・データ管理を具体的に記載することが重要です。
まず、仕様書で制作範囲と完成条件を固定します。次に、制作費と継続費用、変更手続き、権利関係、保守範囲を確認し、業務上重要なシステムや個人情報を扱う場合は、締結前に法律の専門家へ内容を確認してもらいます。







